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高松高等裁判所 昭和36年(ネ)139号 判決 1964年3月26日

高松市西ハゼ町三〇番地

控訴人

昭南製紙株式会社

右代表者代表取締役

岡保一

右訴訟代理人弁護人

深田小太郎

被控訴人

右代表者法務大臣

賀屋興宣

右指定代理人

杉浦栄一

村重慶一

高原喜平

大坪定雄

右指定代理人

泉秀吉

原井章

右訴訟代理人弁護士

熊野一良

右当事者間の過誤納金返還請求控訴事件につき、当裁判所は昭和三八年四月一七日終結した口頭弁論の結果に基づき、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。第一次的請求として、被控訴人は控訴人に対して金七、三八八、四八八円およびこれに対する昭和二四年四月六日から同二五年三月三一日までは百円につき一日金一〇銭、同二五年四月一日から同二九年三月三一日までは百円につき一日金四銭、同二九年四日一日から支払済みまでは百円につき一日金三銭の各割合による金員を支払え。第二次(予備的)請求として、被控訴人は控訴人に対し金七、三八八、四八八円およびこれに対する昭和二四年四月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否、援用は、次に附加する他は原判決事実摘示(ただし請求原因一の3、4として摘示された部分を除く)と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は「本件逋脱にかかる物品税額一、五七六、六六八円一〇銭については、その賦課処分は存在しなかったものである。元来物品税は、申告納税制度を採っており、納税義務者が自ら課税標準額、税額を申告し、税務署長が調査の上右申告にかかる課税標準額、税額を確認した上、納税義務者に納税通知書を送付し、これによって納税が行なわれるものであるから、物品税については行政処分としての賦課処分は存しない。本件においては、、現実に右の納税告知書の送付もなく、勿論賦課処分などは存在しない。控訴人としては、昭和二四年二月七日付高松税務署長からの通告書(甲第一号証)に前記逋脱にかかる物品税が明記されており、遅かれ早かれ納付しなければならないものと思い、一方では、右物品税額を納付することにより通告にかかる罰金相当額の納付期限を猶予してもらおうと考えて、右通告書に記載された物品税額を任意に高松税務署に持参納付したに過ぎないものである。控訴人は、右逋脱にかかる物品税額の納付については、納税告知書が来て納付したものと誤信し、原審口頭弁論においては、これが賦課処分があった旨陳述していたが、その後、右逋脱にかかる物品税額分の領収書(甲第二号証の一)と罰金相当額分の領収書(甲第二号証の二)との様式が相異していることに気付き、調査したところ右の事実が判明した。従って、本件逋脱にかかる物品税額の納付は、何ら法律上の原因なくしてなされたものであり、過誤納金というべきであるから、被控訴人は控訴人に対してこれを返還しなければならない。仮に、昭和二四年二月一四日付で高松税務署長より控訴人に対し、右逋脱にかかる物品税賦課処分が存在し、これに基づいて控訴人が納付したものであったとしても、前記引用にかかる原判決事実摘示中の請求原因として記載してあるとおりの理由により、被控訴人は控訴人に右金額を返還する義務がある。」旨陳述し、証拠として当審における証人田中勝美尋問の結果を援用し、乙第一一号証の一ないし三の成立を認めると述べた。

被控訴代理人は「控訴人は原審においては、本件逋脱にかかる物品税額の納付については、昭和二四年二月一四日付で高松税務署長から控訴人に対して右物品税賦課処分があり、これに基づいて右物品税額を納付したものであると主張していたものであり、当審において右物品税賦課処分は存在しないと主張することは、自白の撤回であり、異議がある。高松税務署長は、昭和二四年二月一四日付で、控訴人に対してその逋脱にかかる和紙類の物品税額を合計一、五七六、六六八円一〇銭とする旨物品税賦課処分をなすとともに、その旨納税告知をなし、右処分に基づき控訴人が納付したものである」旨陳述し、証拠として乙一一号証の一ないし三を提出し、当審における証人藤川正春尋問の結果を援用した。

理由

当裁判所の見解は、次に附加する他は、すべて原判決理由に記載と同様であるから、ここにこれを引用する。

控訴人は、本件逋脱にかかる物品税額金一、五七六、六六八円一〇銭については、賦課処分はなかったと主張するが、右主張事実に添う証人田中勝美の供述のみでは、いまだこれを認定するに足らず、また右物品税額分の領収書(甲第二号証の一)と罰金相当額分の領収書(甲第二号証の二)の様式の相異についても、証人藤川正春尋問の結果によると、本件の昭和二四年当時には、納税義務者が税務署に直接税金を納付した際においては、税務署の事務取扱上、納税告知書と一連になっている領収証を交付することなく、甲第二号証の一の様式の領収証を交付することとなっており、納税義務者が郵便局その他金融機関等に払込んだ場合には納税告知書と一連になっている甲第二号証の二の様式の領収証が交付されることになっていたことが認められ、右各領収証の様式の差異のみから、本件逋脱にかかる物品税額の賦課処分或は納税告知がなされなかったと認めることもできず、その他の証拠を検討しても、控訴人の右主張事実を認めるに足らない。かえって、成立に争いない乙第一一号証の一ないし三、証人藤川正春の証言並びに弁論の全趣旨によると、本件逋脱にかかる物品税については、昭和二四年二月一五日頃に、高松税務署において徴収決定がなされ、その頃控訴人に対してこれが納税告知をなしたものと認めることができる。したがって、控訴人の前記主張は採用できず、この主張事実を前提とする請求もまた理由がないものといわなければならない。

よって原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺進 裁判官 水上東作 裁判官 石井玄)

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